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東京大学後期総合科目Ⅲ

東京大学後期総合科目Ⅲ

<H24.7.28>

オットー・ディックスの「汝の目を信じよ!」という言葉、肝に銘じます。

今年の東京大学の後期総合科目Ⅲは、
なかなか骨のある出題でしたね。

まず今回は、問題Ⅰについて論評しますが、
2012年度の課題文は徐京植「汝の目を信じよ!」
からの引用で、内容的には、ナチス・ドイツ時代における
文化芸術に対するテロリズム(退廃芸術追放作戦)の事例から、
芸術と政治の関係性について考えさせる出題でした。

まず問1では、課題文中に登場する「ワイマール共和国」について、
その歴史を500字以内でまとめることが要求されています。
ただし、課題文は、ナチス・ドイツが、画家オットー・ディックス
に対してとった弾圧・抑圧の話が主ですので、何ら
「ワイマール共和国」の歴史について記述がありません。

ですので、言ってみれば、世界史の知識を問う単体の出題なのですね。

そして知識といいましても、500字以内で「ワイマール共和国」の
何たるかを概説せねばなりませんから、答案を書き出す前に、
まず記述する内容の構造を組み立てることが必要です。

そのような準備なしに、時系列でただ歴史的事実を説明すると、
読み手には全く伝わりません。
つまり、知識とともに文章の組み立て方や
筆力が併せて問われているのです。

その意味から、まとめ方の一つの例を示すと、1919年から1933年の
15年間を「成立・混乱期」、「安定期」、「ナチスの台頭-崩壊期」
という具合に、3つの期間に区分すると良いと思います。

「ワイマール共和国」は、国民主権、生存権を保障した
ワイマール憲法に基づく民主的理想を高く掲げた国家でした。
ところが、その内実、台所事情には大変厳しいものがありました。
なんと言っても敗戦後ヴェルサイユ条約を受容すること自体に
かなりの無理がありました。巨額の賠償金を抱え、領土の削減、
軍備の縮小など不利な条件を突きつけられたわけですからね。

もちろん、ドーズ案、ヤング案などで
「ワイマール共和国」も一時安定を見せるわけですが、
1929年の世界恐慌でドイツ経済は深刻な状態に逆戻りします。

この負の社会情勢の中、ヴェルサイユ体制に対する
国民の不満をうまく利用し、勢力を伸ばしたのがナチス政権です。
まあ、以上述べた具合に3つの時期に区分し概略をまとめられれば良いと思います。

問2は、課題文を読み、まず「芸術作品の政治的介入と
利用の目的」について説明し、その上で芸術作品への政治的介入や
利用の持つ問題を、課題文とは異なる事例を
最低一つ示して500字以内で論じる、というものです。

芸術作品には文学も入りますので、わが国で言えばプロレタリア文学への弾圧、
例えば小林多喜二に対する特高警察による厳しい弾圧などは
題意に合致する記述となるでしょうね。
あとは、昭和32年、44年、55年に最高裁判決の出た
性表現に関する、国家の介入あたりでしょうか。

私も刑法の違法性の実質論では「社会的相当性説」を支持しておりますから、
この件に関しコメントするのは、苦しい立場なのですが、
たとえば最大昭44.10.15、「悪徳の栄え」事件の
判決文は興味深いですね。

<判決文一部抜粋>
「出版その他の表現の自由や学問の自由は、
民主主義の基礎をなすきわめて重要なものであるが、
絶対無制限なものではなく、その濫用が禁ぜられ、
公共の福祉の制限の下に立つものであることは、
前期当裁判所昭和32年3月13日大法廷判決の
趣旨とするところである。
そして、芸術的・思想的価値のある文書についても、
それが猥褻性をもつものである場合には、
性生活に関する秩序及び健全な風俗を維持するため、
これを処罰の対象とすることが国民生活全体の利益に
合致するものと認められるから、これを目して
憲法21条、23条に違反するものということはできない」


ここでは、判決文に登場する下線部(下線は筆者による)の
「性生活に関する秩序」、「健全な風俗」という概念道具に着目してください。
言ってみればこれは曖昧な基準なわけですね。
ですから、この基準を駆使し文学における芸術表現を
国家目的に合致させるよう、これが過度に機能する場合には、
問題の生じる場合があると考えられます。
それは、国家目的による介入の度が過ぎると表現者の創造性に
対する抑圧が加速されるのと同時に、鑑賞者の自律性、価値決定の
自由が損なわれるからだと思います。

次回は、問題2「神仏習合」に関する出題の解説を致します。
お楽しみに!

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